前期破水 
日本産婦人科学会では「前期破水とは、陣痛開始以前の破水である。」と定義されています。胎児はお母さんの子宮の中で羊水と共に卵膜という袋に包まれて生活しています。この卵膜が破れて中の羊水が子宮から流れ出る状態を破水と言います。前期破水は全妊婦さんの約10%にみられ、予定日近くでは約8%近くの方が陣痛開始前に破水します。また早産の30%近くが前期破水を伴っています。 
 
【破水の原因】
感染、羊水過多、双胎妊娠、多胎妊娠、子宮の異常、胎児の異常、頚管無力症、羊水穿刺など色々な原因や誘因が報告されています。なかでも腟などの細菌感染により卵膜に感染(絨毛膜羊膜炎)を起こし破水することが大きな比率を占めています。
 
 
【破水の部位】
高位破水
 子宮口から離れた部位の卵膜が破れて中の羊水が子宮から流れ出る状態です。比較的流出する羊水の量は少なくチョロチョロと出ると表現される方が多いようです。
低位破水 子宮口周辺の卵膜が破れて中の羊水が子宮から流れ出る状態です。突然多量の羊水が流出することがあります。 
 
【破水が母体と胎児(新生児)に及ぼす影響】
破水が起こると、次に陣痛が来ます。一般的には予定日に近いほど破水後早く陣痛が始まります。妊娠37週以降の満期産では80〜90%以上、早産の妊婦さんの約50%近くが、破水後24時間以内に陣痛が起こるという報告もあります。さらに前期破水を伴った早期妊婦さんの85%以上の方が1週間以内に陣痛が始まったという報告もあります。
 
 
【破水後に起こりやすいこと】
★妊娠全期間
@ 陣痛が始まる
A 破水後の時間が長くなるにつれて胎児や母体へ細菌感染を起こしやすくなる
B 子宮口が開いていると、羊水と共に臍帯(へその緒)が、腟内に出てしまう(臍帯脱出)
C 羊水が減ると胎児自身や子宮によって、羊水中に浮遊していた臍帯を圧迫してしまう
★妊娠早期
D 妊娠22〜24週以前の前期破水は胎児の肺形成不全を起こす可能性がある
E 胎児は羊水が減少すると子宮内で動きにくくなり、さらに子宮収縮が起こると全身を圧迫されるため発育障害が起こりやすくなる。
 
 
【治療と管理】
★妊娠末期の前期破水

妊娠36週以降の前期破水の管理および治療の目標は感染予防と分娩です。既に陣痛が始まっている場合はそのまま分娩進行を管理します。陣痛がまだ始まっていない場合は、感染の有無と胎児が陣痛に耐えられるかを調べながら自然の陣痛開始を待つか陣痛誘発を選択します。
★妊娠早期の前期破水
妊娠36週未満の前期破水は、感染症状を認めず入院管理が可能な状態であれば子宮収縮や感染を予防しながら妊娠を継続させます。感染が無い場合の胎児の予後は、胎児未熟によるものが大多数であるため、治療の目標は在胎期間の延長です。しかし感染徴候を確認した場合は、妊娠週数を考慮に入れて分娩を選択する必要もあります。
★胎児の子宮外生存可能以前の前期破水
妊娠24週以前(妊娠22週以前とする考えもあります)の前期破水では、感染徴候を厳重に注意しながら妊娠継続を図りますが、羊水の流出量が多く子宮内にあまり羊水貯留がない時などは、胎児の肺形成不全や圧迫による四肢骨の彎曲などの発育障害も報告されています。人工羊水を子宮内に注入する治療などもあります。いずれにしても、感染症をいかに引き起こさずに妊娠を継続できるかが最大の問題になります。また、感染徴候が重症になると、母体の安全性を考慮して人工妊娠中絶が必要になる事も有ります。