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 正常分娩
分娩の冒頭ページにも書きましたが分娩とは一時的なものではなく赤ちゃんを産むための一連の流れをいいます。進みが速いお母さんもいれば、ゆっくりと進む人もいます。
それはお母さんのペースであったり、赤ちゃんのペースであったりします。
焦りは禁物です。産婦人科では分娩を次のように考えています。
「分娩とは胎児および付属物を母体外に娩出し、妊娠を終了する過程をいう。」
ここでいう付属物とは、胎盤、へその緒、卵膜、羊水のことです。
   
分娩の前兆 分娩時期が近づくと、お母さんのからだにいろいろな変化が起こり始めます。
この変化を「分娩の前兆」といいます。
前兆は、妊娠末期(妊娠10ヶ月ごろ)になると赤ちゃんが下がり、お母さんの骨盤の中に入り始めることによって起こります。

1)胃がすっきりする 胎児が下がることによって、胃の圧迫がなくなるためです。

2)おしっこがさらに近くなる 下がった胎児によって、膀胱がさらに圧迫されるためです。

3)子宮がやや下がった感じがする 胎児が骨盤の中に入ったぶん、子宮が小さく感じます。

4)赤ちゃんの動きが減る 骨盤の中に入ったため、動きが制限されるためです。

★「おしるし」は何故出るの?
「おしるし」(産徴)は、分娩開始近くに出る血性の赤黒いゼリー状のおりものです。
「おしるし」なしに分娩が始まったり「おしるし」があっても何日も分娩が始まらないこともあります。
「おしるしは、分娩開始が近いですよ。」というサインであり分娩開始とは違います。

妊娠中は、卵膜と子宮は張り付いています(図1)。
前駆陣痛などによって子宮口が柔らかくなると、子宮の収縮によって子宮下部(子宮頚管)が開き始め、卵膜が子宮から剥がれてしまい出血が起こります。このとき子宮頚管は頚管粘液が栓をしています(図2)。 出血量が増えてくると、頚管粘液と混ざり、腟内へ出てきます。これが「おしるし」です(図3)。

   
   
分娩の3要素 聞きなれない言葉だと思いますが、簡単なことです。要するに分娩にかかわるものを大きく3つに分けました。

1)娩出力 お母さんの陣痛と腹圧のこと

2)産 道 分娩時に赤ちゃんとその付属物(胎盤・へその緒・卵膜・羊水)の通り道

3)娩出物 分娩でお母さんのお腹から出てくるもの(赤ちゃん・胎盤・へその緒・卵膜・羊水)のことです。


これらの3要素が、それぞれ関わりあって分娩経過に大きな影響を与えます。
 
   
娩出力 陣痛(子宮の収縮力)と腹圧(いきみ)によって構成されていま。 
★陣痛について
「陣痛は何故痛い?」
妊娠中期〜後期の子宮収縮では、通常痛みを感じません(時には強い収縮があれば痛みを感じることもありますが・・)。
しかし分娩が始まると陣痛発作に痛みを伴うようになります。これは子宮収縮が強くなることによって子宮自体にある知覚神経を圧迫し、さらに子宮周囲〜周辺の腹膜を引っ張るために痛みを感じます。
また、分娩が進行すると子宮口〜腟やその周辺組織(産道)が下降してきた胎児によって圧迫され、さらに拡げられるために痛みは強くなります。
また陣痛(子宮収縮)は、子宮頚部にあるフランケンハウザー神経叢(しんけいそう)という神経に支配されていて、自分の意思ではコントロールできません。

★陣痛の計測方法
1)陣痛周期
 痛みを伴う子宮の収縮(陣痛の発作)と収縮の休止(陣痛の間欠)が周期的に起こります。(下図の赤色曲線の山の頂点から次の頂点の長さ)

2)陣痛の強さ 陣痛の強弱は、子宮内圧によって決まります。お母さんによって痛みの感じ方や表現に違いがあるため「陣痛の痛み」の強弱では有りません。(下図の赤色曲線の山の高さです。)

3)持続時間 陣痛の持続時間とは、娩出力として有効な陣痛の時間をいいます。(下図では、青色矢印の間です。陣痛持続時間はピーク時の1/5点の時間で計測します。) 
   
  ★陣痛の種類(時間的な流れについて)
陣痛は時間的経過によって呼び方が異なります。
妊娠陣痛→前駆陣痛→分娩陣痛(開口期陣痛→娩出期陣痛→後産期陣痛)→後陣痛
 
   
  1)妊娠陣痛  妊娠末期に起こる軽い子宮収縮で痛みはありません。

2)前駆陣痛  妊娠末期の分娩開始前に起こり、妊娠陣痛よりもやや強く子宮口を軟らかくします。たまに軽い痛みを伴い分娩の開始と間違えることがありますが自然に消えてしまいます。この時期に「おしるし」があります。

3)開口期陣痛  分娩第1期に起こる陣痛で、子宮口を10cmまで拡げます。1時間に6回以上で周期的に痛みを伴い間隔は徐々に短くなってきます。

4)娩出期陣痛  分娩第2期に起こる陣痛で、胎児を産むために起こる陣痛で同時に「いきみ」が自然に入るようになります。陣痛の周期はさらに短くなり2〜3分周期になります。胎児は子宮〜腟〜外陰部を通って産まれます。

5)後産期陣痛  分娩第3期に起こる陣痛で、胎児付属物(胎盤・へその緒・卵膜・羊水)を子宮から出すための陣痛です。通常、娩出期陣痛と比べると格段に痛みは和らぎます。

6)後陣痛  不規則に起こる陣痛で、分娩後の出血を止めるため、妊娠で大きくなった子宮を元へ戻すために起こる陣痛です。時々ひどく痛むこともあります。初産婦さんよりも経産婦さんのほうが収縮が早いぶん後陣痛が強いです。

★「いきみ」について
通常、腹圧(いきみ)は腹壁筋と横隔膜筋が同時に収縮して腹腔内圧を上げるものです。トイレで「いきむ」ときは自分の意思で行ないますが、分娩末期になってくると陣痛発作とともに反射的に起こるようになり自分の意思では「いきみ」を止められなくなります。
この状態を共圧陣痛とよびます。無痛分娩などを行うと、この「いきみ」を感じなくなることがあります。
 
   
産道 産道は、分娩時に赤ちゃんやその付属物が通って外に出るためのトンネルだと思ってください。
トンネルは骨と周囲の柔らかい組織から出来ています。赤ちゃんはこのトンネルを拡げて出てこなければならず、娩出力(陣痛)に対して抵抗力となり、場合によっては分娩が進まなくなることがあります。

 1)骨産道 骨盤が骨産道を作ります。

 2)軟産道 子宮峡部・子宮頚管・腟・外陰部・骨盤内の筋肉が軟産道を作ります。
この軟産道が硬いために胎児の正常な産道の通過を妨げるような状態を軟産道強靭といいます。


産道のについて
骨産道は横から見ると下図のようになっています。お母さんの骨盤の形によっては、分娩の進行状態に影響を及ぼすこともあります。
 
   
  骨盤誘導線とは、分娩時の赤ちゃんが通ってくる道順です。

骨盤入口部  赤ちゃんが下がり始めるとき、最初に通る骨盤の入口です。この入口は大きく分けて以下のような形があります。女性型を産婦人科では「安産型」といいます。男性型や扁平型や類人猿型は、赤ちゃんが上手く入れずに難産になる可能性があります。
 
   
  骨盤濶部(こつばんかつぶ)  通常、骨盤の中で一番広い部分です。無事に骨盤入口部を通り抜けた赤ちゃんは、骨盤濶部をお母さんの恥骨の方へ進路変更しながら下がります。しかしこのときにお母さんの仙骨の形が悪いと難産になることがあります。正常な仙骨は赤ちゃんの進路に沿って湾曲していますが、この湾曲が極端だったり直線に近い形の仙骨だったりすると、赤ちゃんは上手に進路変更できずに難産になることもあります。 
   
  骨盤峡部  骨産道の中で一番狭い部分です。赤ちゃんの進路はこのあたりからお母さんの外陰部方向へ直線的に向かいますが、骨盤濶部同様に仙骨の形に左右されます。

骨盤出口部  峡部に比べて、少し広くなります。さらにこの部分の尾骨は赤ちゃんに圧迫されて後へ1〜2cm移動します。ここを通り過ぎれば骨産道は終わりです。

★軟産道について
軟産道は子宮峡部・子宮頚管・腟・外陰部と骨盤内の筋肉から出来ています。赤ちゃんは分娩が始まると、この軟産道を拡げて出てこなければなりません。またお母さんは陣痛が始まると、これらの軟産道が赤ちゃんに圧迫され拡げられるために痛みを感じるようになります。

子宮の変化と頚管熟化  陣痛は周期的な子宮収縮ですが、収縮する部分は子宮体部だけです。子宮峡部と頚管は収縮せず反対に柔らかくなり薄くなりながら拡がります(頚管熟化)。この峡部と頚管が陣痛で赤ちゃんが下がるときに抵抗力となります。
また子宮峡部と体部の境界付近は陣痛時にリングがはまっているように子宮全周にわたってくぼみを作ることがあります。これを収縮輪といい、陣痛増強に伴い上がってくると、子宮破裂の前兆とされています。
 
   
   腟は比較的に拡がりやすく陣痛への抵抗力にはあまりなりません。

外陰部と骨盤内の筋肉 外陰部周辺の筋肉群が最終的な抵抗力になる場合があります。特に初産のお母さんの場合外陰部の伸びが悪かったり、分娩時間短縮の必要があるときなどは会陰切開を施行することもあります。
 
   
 
 
通過管  子宮峡部
(子宮下部)
妊娠後期〜末期になると伸びながら拡がり、赤ちゃんの生活領域の一部になります。 
子宮頚管 軟産道の中で一番陣痛に対して抵抗力になります。特に初産のお母さんでは抵抗力が大きいです。妊娠の経過とともに柔らかくなります。
        軟産道の中では一番伸びやすく、赤ちゃんが下がることで比較的簡単に拡がります。
      外陰部 産道の中で最後の抵抗力を持った部位です。特に初産のお母さんでは拡がりにくいことがあります。
   
娩出物 分娩でお母さんのお腹から出てくるものことで、赤ちゃん・胎盤・へその緒・卵膜・羊水のことをいいます。
赤ちゃんは産科的には頭と身体に分けて考えます。分娩の際に一番問題になるのは、頭蓋骨に囲まれた赤ちゃんの頭です。分娩の際に赤ちゃんは頭の形をお母さんの産道に合わせて変化させて出てきますが、これにも限度があります。
当然、限度を越えると赤ちゃんは苦しくなり分娩停止状態になり、緊急帝王切開術などの適応になる場合もあります。
 
 
★胎児の頭の骨(上から見た図)
赤ちゃんの頭蓋骨は、まだ不完全で比較的に柔軟です。右図の各骨と骨の間は「縫合」といい、完全に密着しないで膜によってつながっています。
中心の大泉門はまだ頭蓋骨はありません。この縫合によって分娩時の産道からの圧迫をお互いの骨が重なり合うことによって(骨重といいます)ある程度頭を小さく出来ます。

大横径 妊婦健診時の超音波検査で計測する胎児の頭の直径です。

小横径 分娩時に赤ちゃんはこの直径で産道に入り込みます。
  ★子宮の中の赤ちゃんがどのような状態でいるか?の分類
聞きなれない言葉ですが、胎位・胎勢・胎向(たいい・たいせい・たいこう)という分類をします。

胎位 頭位(頭が下にある)か?逆子(頭が上にある)か?横位(頭が横にある)か?を表します。
    詳しくは・・・→ こちらへ

胎勢 赤ちゃんの姿勢をいいます。分娩のときに赤ちゃんの後頭部から産道に入るのが正常ですが、頭頂部、おでこ、顔などから産道に入り込むと難産になることがあります。

胎向 赤ちゃんがお母さんの左右どちらにいるかを表します。通常はお母さんの左側にいます。右側に赤ちゃんがいると、お母さんの肝臓や下大静脈などがあり、赤ちゃんもお母さんも互いに圧迫されて苦しくなることがあります。
    詳しくは・・・→ こちらへ

★付属物
妊娠中の赤ちゃんが成長するため、保護するために使われていた胎盤、へその緒、卵膜、羊水のことです。通常は分娩第3期に出てきますが、癒着胎盤(ゆちゃくたいばん)などがあると自然に出てこなかったり、大出血の原因になることもあります。
 
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